1/6の夢旅人2002を作ってから、干支が一巡した。

2002 年、午年。僕の仕事場は、甲州街道沿いの、古いマンションだった。西側の出窓からは、首都高4号線が目の前に見えた。

6畳と4畳半、それとキッチン。部屋は2部屋とも畳。4畳半の真ん中の部屋で仕事をしていた。

今週中に、水曜どうでしょうの最終回用に、新しい曲を作って、送らなければならない。

もうとっくに終わってると思っていたあの番組、まだ続いていたなんて、、

にしても、それまで6年間ずっと使って来たいまの1/6を、新たなヴァージョンに、それもいままでよりグレードアップして送らなくてはならない。

耳なじみのある曲を作り替えて、それでいて、おお、いいじゃん!!、と、思ってもらうのって、相当大変だ。

スタジオ入るのは明後日、まだ全く出来てない。歌詞はもうあるからいいとして、曲だ、曲、、、

もう、、12時を回っている、、どうしよう、、、むりだ、、そんなのできるわけない、、、

リズムパターンを色々考えて鳴らしていると、

「ぎゃーぎゃーぎゃー!!!!」

不意に南側の部屋から叫び啼く声が聞こえてきた。

「うううううるさい!」

「ぎゃーぎゃーぎゃー!!」

「。。。。。。」

ぽーちゃん。

当時僕が飼っていたインコ。

うち込みをやっていると、それに反応して雄叫びを上げる習性が身に付いていた。

2002年の時点で、4歳、雌だった。

雌は、ある程度の年齢に達すると、巣作りポイントを探して、場所を決めると、巣作り行動を始める。

どこをそう思い込むかは、その雌次第。だいたいが、狭い入り口と、ある程度の広さの内部空間を条件として備えた場所だ。

ぽーちゃんは、僕の着ているT_シャツの中をそれに決めた。

かごの扉を開けると。即座に飛んで来て、Tシャツの首の部分にハッシ!!としがみつき、くるっと身体を反転させて、おなかの中に飛び込んで、ガサガサガサ、、、とそこいら中辺り構わずつっつき回る。

仕事をしてる時にそれをやられてはかなわないので、かごに入れると、巣に入れない憤懣を爆発させるのだった。

「ぎゃーぎゃーぎゃー」

「ううううううううるさいいいい」

やり取りを繰り返しているうちに、何だか曲が出来ない苦しみを、ポーちゃんが代わりに鳴き声で表現してくれている気がして来た。

「ぎゃーぎゃーぎゃぎゃぎゃぎゃ」

「え???」

一瞬、ポーちゃんの鳴き方が変わったようにきこえた、、

「ぎゃーぎゃぎゃぎゃー」

「も、も一回鳴いてみて」

「ぎゃーぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃーぎゃぎゃぎゃー」

「たーらららららたーらららー」

ポーちゃんの鳴き方を真似してみた。

「せーかいじゅうをぼーくらのー」

はまる。

いける!!

「ぽーちゃん、つづきを、、、」

「ぎゃぎゃーぎゃーぎゃぎゃぎゃぎゃーぎゃーぎゃー」

「なみーだーでうめつーくしてー」

!!!いけるいける。

「ぎゃぎゃぎゃぎゃーぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃー」

おおおおお~~スゲエエ~~インコが曲つくってる!!

数分後、サビのメロディーが完成していた。

「ありがとう、ぽーちゃん。」

さびさえ出来ればあとはもう出来たも同然だ。

「私にも歌わせて」

突然、ポーちゃんがしゃべった。

「レコーディングやってみたいの、鳴くからとって。」

「いや、さすがにそう言うわけには、、」

「誰がサビのメロつくったの?」

「、、、、」

「あなたが困ってたから助けてあげたのよ。」

「わかった。じゃあそのことは黙っててくれるか?」

「いいわよ。そのかわり、うたわせて。」

僕が籠の戸を明けると、待ちきれない様子で、即座にTーシャツの中に飛び込んだ。

身体を反転させると、Tーシャツの丸首部分に器用に止まり、マイクに向かって歌うよう、僕に指示を出した。

オケをスタートさせ、レックボタンを押す。イントロが流れ始める。

「まわるよ~まわる~」

僕が歌い始めると、ぽ~ちゃんは気持ち良さそうにユニゾンで歌い始めた。

ぽーちゃんは4年間ずっと僕の仕事場にいて、いつでも僕のつくる曲を聴いていた。

そしていつからか、自分でつくったメロディーを歌ってみたいと思い始めたのだった。

僕は、ぽーちゃんに導かれるようにして、空を飛ぶように歌った。

地をはう僕に羽がはえ、彼女と一緒に飛んでいるようだった。

気がついたら、オケは終わっていた。

僕は、ぽーちゃんの声をわからないようにリズムトラックへピンポンダビングした。

そのファイルを、HTB藤村忠寿様へという宛名を書いて送った。

ぽーちゃんのつくった旋律は、聴いた瞬間、何か壮大で切ない想いを喚起させる曲として、ディレクター陣の心をわしづかみにした。

「樋口さん、いいよこれ、俺は好きだなあ。よくこんな短期間で、いい曲つくれましたね。」

「ええ、まあ、火事場のなんとかですね言って見れば。」

「でもね、あのオケ、ちょっと変じゃないですか?」

「終りの方に、なんか、ぎゃーぎゃーギャーって、叫び声みたいなの聴こえません?SEかなんかですか?」

「、、、あああ、やっぱりわかりました?あれは、じつはね、、」

と、ここからは、CDエクストラトラックをご覧になった皆さんご存知のとおり、ぽーちゃんの名前が北海道中の、いまや日本中のどうでしょうファンの間に知れ渡るようになりました。

でもね、

僕とぽーちゃんは、わざとバレるように、終り間際に、鳴き声を入れておいたのです。

最初から最後まで、彼女とずっと寄り添って歌ってることがバレてしまわないようにね。

ぽーちゃんは満足し切ったようで、それから、不満を言うことは無くなりました。

でも、インコとしてはすごく長生きで、12歳になった夏に、怖がっていた息子の指に初めて留まったのを最後に、神様の元に還って行きました。

いまでも、夢の中で、ぽーちゃんと1/6を一緒に歌うことがあります。

溌剌としたポーちゃんは、僕の遥か空の上を飛びながら、地面を歩く僕に奇麗な歌声を響かせてくれます。

「がんばって。まってるからね、ずっと。」

生き生きと空を飛ぶぽーちゃんが、呼びかけてくれます。

いまも、曲作りに煮詰まったとき、

どこからか、ぽーちゃんの声が聴こえてくるような気がします。

「せ~かいじゅうをぼ~くらの~なみ~だ~でうめつくして」

1/6の僕の歌が、生き生きと空を飛んでいるように聴こえるのには、

そんな秘密があったのです。

ぽーちゃん

ありがとね。

今日の一曲
Song bird フリートウッドマック