暮れの訃報に書いておきたいことを。

 

 

 

右も左も分からないファーストアルバムのレコーディング。

 

20年前。スタジオにエンジニアと2人きり。誰も何も教えてくれない。MRカウンセラーという曲。「じゃ,じゃあ,とりあえずギター録りましょうか。」と,借りたオベーション のアコギ、ラインでつなぎ、うち込まれたオケに、頭から弾き始めた。

 

その時僕の頭にあったのは,大滝詠一さんの、ア ロングバケーション。

 

フィルスペクターサウンドを長年研究して録られた分厚く、きらびやかな音の壁。

 

弾き終わり、プレイバックを聴いた後、

 

「あ、も一回、録ります。」

 

「消していいですかこれ?」と、エンジニア

 

「いえ、この上に重ねます。」

 

「、、、はい。」しばしの沈黙のあとエンジニアの返事。

 

僕がその時のダビングで弾いたあこぎのストロークは、8回。

 

そのすべてが、本ちゃんに採用されている。

 

聴くと、目の前に横一列にアコギのライン録りの平板で奥行きのない、固い、音の壁が立ちはだかっている。

 

無知は、恐れを知らない。

 

いや、全く知識がない状態より、半端に聞きかじってる方が手に負えない。

 

重ねりゃふえんだろ。

 

これが、僕の頭を駆け巡っていたキーワードだった。

 

一人で重ねた、1+1+1+………が、<1になるってこともあるなんてその時は知る術もない。

 

8回のアコギのライン撮りで出来た音の塊は、先人へのオマージュと繊細な配慮によって作られた、かの大滝ウォールオブサウンドとは全くかけ離れたものだった。

 

イースト菌がパンの種を膨らまして行くような増え方と、グレムリンが増殖する増え方の違いと言えばわかりやすいでしょう。

 

今から思えば、ほったらかしにしてくれたPの三宅さんのおかげで、僕は実地で失敗を重ねながら、一つ一つを学んで行かせてもらえた。

 

空気で混ぜる。これが、大滝サウンドのきも。

 

同じスタジオで、2人以上で同時に同じプレイをしてその混ざり合った空気を絶妙のマイキングで録る。

 

電気的にピックアップした音を、一人で何回重ねたって、グレムリンは増えて行くが、パン種は膨らまない。

 

まざらないのだ。

 

大滝さんの当時のレコーディングは、常に同じパート複数人数で行われた。

 

ドラム2人ピアノ2人ギター三人てなぐあいに。

 

それを、名匠エンジニア吉田保さんが、あの毛足が長いのに音像がしっかりしているリバーブの保マジックで仕上げられて行く。

 

君は天然色、恋するカレン、さらばシベリア鉄道、、etc

 

あの壮麗なサウンド。

 

これらは、大滝さんのこだわりのすてきなたしざんで実現したことと知った。

 

憧れのレイナという曲は、僕なりの大滝ポップスへのオマージュ。

 

自分のサウンドが見つかっていたわけでもないけど、ビートルズの使っていたフェアチャイルドというコンプが初めて使えたので、リバーブは敢えて少なめにした。

 

予算がなく、リズムトラックも、上ものも1人づつだったけど

 

ただ、忠ちゃんと二人でアコギを同じスタジオで同時に弾いた。

 

8回弾いてグレムリン8匹だった前回に比べ。

 

空気が混ざり、パン種がふっくらと膨らんでくれる実感があった。

 

レコーディングの面白さが初めて自分なりに見えた瞬間だった。

 

このような形で、数知れない現役のアーティストたちに有形無形の影響を与えた、大滝詠一さん。

 

壊れかけたワーゲンが、春の客船の出港する港に浮かぶスピーチバルーンが、天然色の憧れであり続けているのも、

 

その言葉たちが、ナイアガラ瀑布のきらめきに彩られているからです。

 

ありがとうございました。

 

そしてこれからも

 

どうぞよろしくおねがいします。

 

今日の一曲

雨のウエンズデイ